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    ドクターエッセー 第36回  【アンジェルマン症候群】 川又正之
 

今まで自前の症例発表は手前味噌になるので控えてきました。しかし、難治症例でもなんとかなる例があることを知ってもらうことも大事と思うようになりました。「なんか面白そうだな、自分もやってみようかな」と思う人が出てくれるのを秘かに期待しています。去年経験した症例ですが、アンジェルマン症候群の多動児です。(解説1)患者は男児7歳で、多動性の為に走りまわる傾向がありました。お母さんが最も困っているのは、寝る前、物をひっくり返しながら20~30分間走り回り、週に4,5回は夜中に起きて走りまわる事でした。寝る前にはおにぎりをいっぱい食べます。朝起きると走り、学校でも走ります、まるでフォレスト・ガンプ(トムハンクスの映画)みたいです。ただガンプはしゃべれましたが、この男児は全くしゃべることができません。知能は2歳くらいだと、お母さんが言っておりました。多動は5月からおこり、暑くなるにつれて顕著になり、真夏には体温が38.5度になり熱中症のようになっていつも床に腹ばいになっているのです。動きすぎるので舌診、脈診もとれず話も通じません。結局お母さんの話だけで処方することになりました。
処方は、半夏2夏枯草3白朮3鶏内金1天麻3黄連1玄参3生地黄3枸杞子3竜骨8珍珠母8白僵蚕2蒺藜子3滑石8です。すると、その日の夜から睡眠改善しました。暴れないで寝られたのです。4週後には多動もほとんどなく、睡眠も良好で、体温上昇もなく、ムズムズかゆみも軽減してきました。またお母さんがとても喜んだのは、秋からとても賢くなったというのです。「電気切って」「水道停めて」という用事が、初めてできるようになってきたのです。産婦人科のみをやっていたらこんな経験はあり得ません。大学病院でも治療法がなかった患者が良くなっていく醍醐味を味わえるのもいいものだと思います。ただ、こうした漢方薬の効果をプラセボ効果と揶揄する人もいます。今回この症例を出したのは、この患児にはプラセボ効果はかからないと思われるからです。患児と意思疎通はできず、診察室に入って走り回っただけで、なにも理解せず出て行ったからです。 
この症例を解説してみます。「子供は常に脾気が不足し肝は旺盛です。多動になるのは心の熱です。つまり肝火から心火が発生しました。足の振戦は肝風でしょう。寝つきが悪く、夜中に騒ぐのは陰虚火旺です。食欲亢進は胃熱。夏に体温上昇は、夏の湿熱、または気陰を損傷するからです。故に弁証は陰虚火旺、心肝火旺、脾気虚胃熱。治療は黄連、夏枯草で心火肝火をとり、生地黄、玄参、枸杞子で滋陰清熱し、肝風とるため天麻、蒺藜子、珍珠母。半夏、夏枯草は肝火不眠を治し、竜骨、珍珠母は重鎮安神できる。滑石で清熱利湿して解表して体温下げる。防風は袪風止痒、白僵蚕、蒺藜子も熄風止痒できる。白朮、鶏内金で脾胃不和を治し黄連、石膏で胃熱をとります。」この理論理解のために、中医学基本講座を毎月第一木曜日午後7時から8時半まで県立中央病院の3階会議室で行っています。初心者歓迎です。希望者はメールしてください(kawa123@viola.ocn.ne.jp)

解説1:アンジェルマン症候群とは15番染色体に、母由来の欠失領域がある疾患で、重度の言語障害と精神遅延、歩行失調、四肢の振戦様運動、独特の行動(頻繁に笑い、微笑み、興奮しやすい)を特徴としています。
 
 
 
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