脾胃の話が一段落したので、今回は閑話休題として母乳指導の功罪について話してみます。ぼくは母乳を否定しているわけではなく、赤ちゃんの栄養で、母乳に勝るものはないとおもっています。それは単なる栄養の補給だけでなく、免疫成分も多く含んでいるからです。赤ちゃんは、生後半年ほど自分で免疫を作れないので、お母さんの母乳を通じて、母の獲得免疫をもらっています。そしてやがて自分で自己免疫を獲得していきます。これが非常に重要なところです。ところが、最近は、除菌、除菌と環境を清潔にしすぎて、大人になってもヘルペスウイルスの自己免疫を獲得していない人が徐々に増えてきています。すると赤ちゃん自体がその免疫を持っていないので、新生児期に感染して重症になることがあります。除菌除菌といいすぎるのは、自然免疫を獲得する機会を減らしていくので感心しません。
少し話がずれました。母乳の話でした。赤ちゃんは母から母乳をもらうとき、乳首をくわえます。それが安心感をもたらします。またそのとき赤ちゃんの耳は、母の心臓の近くにあります。その心臓の拍動音は、赤ちゃんが胎児の間、長い間毎日聞いてきた、あの懐かしい鼓動音です。それによって赤ちゃんはより安心できます。このように母乳は非常に優れものであります。
ただ母乳の効果を強調するため人工ミルクを与えることを勧めない母乳指導があります。そして赤ちゃんが泣きだせば、すぐに母乳を与える自律授乳の話もよく聞きます。母乳が十分出る人はいいのですが、そうでない人は弊害がおこります。また母乳は十分出ていても自律授乳のために、夜中に4回も5回も授乳するお母さんがいます。これが大きな問題です。去年、経験した患者さんでは、夜中に十回、約1年間起こされていたお母さんがいました。夜中に4、5回起こされていた人は、産後うつから自律神経失調になりました。後者の人は出産後1年で片頭痛が発症して、十年以上苦しんで当院にやってきました。夜中の頻回授乳が全ての原因ではありませんが、大きな要因になっているのは確実です。
つい先週も産後3週目の人を診察しましたが、夜中に、4,5回起こされて、疲労困憊でした。授乳の指導をするだけで、2週間目に診察したときは、夜中の授乳は1,2回に減っていました。これぐらいが正常なパターンで、許容範囲の疲れだといえます。指導は授乳時間を3時間以上開けることです。夜中に頻回に起きる赤ちゃんは、昼間、授乳間隔が1時間半とか、2時間になったりしています。3時間経つまで、ミルクを上げないことがポイントです。 それまでに泣いたら抱っこしてあやす、それでもだめなら、泣かしたままにしておく。そして3時間経ったら、母乳を上げる。足らなければミルクもあげる。 大人もそうですが、1日5,6食たべていると、一回の食事量が少なく、そのためすぐにおなかが減ります。食事がおいしいと感じるのは、空腹感がしっかりある時です。「空腹感(不快)と満腹感(快感)があること、快と不快の繰り返しが、子供の情緒発育に大事で、それが、善と悪の認識の基本になる」と昔、講演で聞いたことがあります。自立授乳には
問題が多いと感じています。
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