黄耆建中湯について
今回は黄耆建中湯について話してみます。黄耆建中湯はツムラの手帳によれば「虚弱で疲れやすい人で虚弱体質、病後の衰弱、寝汗」とあります。この場合の虚弱と寝汗は、営衛不和による場合です。営衛とは肌表をまもる衛気と営気のことです。主に衛気が弱くなると、営気が津液を引き連れてもれてしまうので自汗や寝汗が出ます。これが営衛不和です。しかし寝汗をおこす原因としては、湿熱、陰虚、営衛不和の3つがあり、おおいのは湿熱、陰虚による寝汗です。営衛不和は比較的少なめです。ですから虚弱と寝汗のキーワードのみで処方すると間違えることが多くなります。 湿熱で熱がこもると津液を押し出すので寝汗が出ます。アルコールを多飲すると寝汗が出るのはアルコールが湿熱を産生するからです。(アルコールを飲むと水湿が増えて尿が近くなり、体中が赤く熱くほてります。つまり湿熱です。)陰虚の場合は陰虚の為に虚熱が生じて、虚熱が津液を追い出して寝汗になります、(虚熱は第2回で、陰虚内熱と説明しましたが、同じことです)。虚弱で寝汗と言えば気虚と陰虚のあわさった気陰両虚による寝汗の方が、実際には多いようです。その場合、黄耆建中湯では、桂枝、生姜と温性の薬が多いので不適といえます。 黄耆建中湯の構成は黄耆、桂枝、芍薬、生姜、大棗、甘草です。黄耆は固表止汗して桂枝芍薬で、営衛調和するので、営衛不和に使えます。見方を変えると黄耆で脾胃を補い、桂枝生姜大棗で補脾温養して、芍薬甘草で補血して痙攣性の腹痛をとるともいえます。それで中医学的にはこの処方は「気虚の腹痛」によく用います。 教書的には胃気虚(胃脘痛、嘈雑、呃逆噯気,嘔吐虚労、痛みは隠痛で空腹時に酷い。)の治療薬として、黄耆建中湯と旋覆代赭湯の記載があります。(後者はエキスにない) ところで、先ほどの寝汗同様、「空腹時に胃痛がする」のは、胃気虚のみではありません。肝気犯胃、瘀血停滞、胃気虚、胃虚寒証があげられます。多いのは肝気犯胃ですが脾胃気虚(胃気虚+脾気虚)も結構あります。それで脾胃気虚の場合、黄耆建中湯+六君子湯で加療している報告例もあります。 また治療の際、空腹時痛の場合、胃酸過多も併発しやすく酸水がこみ上げるとか、胸やけを伴うことも結構あります。それに対しては牡蠣、烏賊骨(いかの軟骨)が有効です。黄耆建中湯+牡蠣、烏賊骨を使いたいところです。牡蠣末はいちおう、保険もきくので、その併用は可能です。瓦りょう子などの中薬が有効なのですが、残念ながら日本にはありません。
参考>写真は膠原病外来で、温成平教授が線維筋痛症に処方した内容です。黄耆建中湯加減の処方になっています。こんな疾患にも使っています。
炙黄耆30淡附片6細辛3合歓皮9炙甘草6浮小麦30柴胡6桂枝10白芍12生姜9紅棗15烏梢蛇10(単位はg)
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