今回は脾陽虚につかう人参湯について、話してみましょう。今まで話したのは、脾気虚なら四君子湯、脾虚痰湿なら六君子湯、胃寒証なら安中散でした。まず、一般的な虚証の種類を説明します。気虚、血虚、陽虚、陰虚があります。気の作用には温煦(おんく)、推動、気化、固摂、防御の5つがありましたが、その機能低下が気虚です。症状としては「疲れ、息切れ、脈軟無力、舌やや胖」が主な症状です。気虚に加えて寒証(冷え症状)が強い時は陽虚になります。血の作用は滋潤、栄養ですが、それが不足すると血虚です。症状としては、「顔色萎黄と舌淡、脈細」が代表的症状です。陰虚は血虚と津液欠乏のことですから、血虚の症状に干燥、不穏、虚熱が加わり「口干、心煩、めまい、目がチカチカ」などの症状がでてきます。
身体には五臓があり、理論上それぞれに気虚、血虚、陽虚、陰虚があることになります。実際には、すべてがあてはまるわけではありません。 たとえば、脾では脾気虚、脾陽虚、脾陰虚があります。脾の血虚はありません。脾気が気血生化するので、脾気虚はすなわち気血不足を示しているからです。血の単独の不足の状態は、脾では起こりません。 脾陽虚では以下の症状があります、「腹部が冷える、下痢水様便、時に腹痛、食後腹脹、舌淡胖、脈細弱遅」です。治療は人参湯を用います。その構成は人参、乾姜、白朮、甘草です。 乾姜は温肺化飲し(肺を温め、肺の水飲をさばくこと)、そして温脾和中します。脾陽虚は脾気虚に寒証が加わった状態なので、冷えがあります。温煦推動作用が気虚よりもさらに低下するので、脈は細弱の上に遅くなります。それで脈細弱遅になります。水液代謝もさらに低下します。水液は脾肺腎が共同しておこないます。その内の一つである脾の機能が低下してむくみが出たり、口に涎がたまったりします。舌にも影響して胖大になり、ぼてっとしてきます、歯根(舌に歯型がつくこと)もよくできます。脾陽虚に対して、胃の陽虚は胃虚寒証といいます。胃虚寒の症状は「空腹時に胃痛、食べると暖めるとまし」で脾陽虚とは異なります。ただし、治療薬はともに人参湯が主体になります。つまり人参湯は脾陽虚、胃虚寒証(胃の陽虚とはあまりいいません)につかえます。老中医の症例では胃潰瘍の穿孔例に人参湯で治療で来た症例報告があります。また脾陽虚の腹診所見は脾気虚とおなじく気血不足の為に軟弱無力が多いのですが、時に板状に硬くなることがあります。これは陽虚寒凝のためです。
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