今回は六君子湯を取り上げます。まずは前回の復習です。「脾気虚は食欲不振、泥状便(または溏便といい、便がべちょべちょ)、食後腹脹になる」のが主な症状でした。脈では弱(沈、細、軟)になります。その他には顔色萎黄、倦怠があります。食欲不振になるのは脾失健運(脾が健全な運化を失調する意味。ここでは、とくに水穀の運化失調)のためです。泥状便になるのは、水分吸収機能が低下(水液の運化失調)するからです。食後腹脹は脾失運化で、気機の停滞が生じるためです。顔色萎黄や疲労倦怠は、脾気虚で気血の生化が十分にできず、全身を滋養できないからです。このように、種々の症状の機序を、漢方用語で解明していくことが非常に重要な作業になります。(脈弱については、また後日説明します。)こういう時は、前回の話でもあったように、四君子湯を使います。 ところが、脾気虚が進行すると痰飲を形成し始めます。脾は水液と、水穀の精微を運搬しますが、その運行作用が低下すると、それらが停滞して痰飲をつくります。いわば川の流れがよどんで、川面に灰汁(あく)が浮かび、川底にはヘドロが蓄積するようなことに相当します。これが痰飲と言われるものです。痰飲には比較的サラサラの物から、粘調度の強いものがあります。薄いものから順に痰飲(狭義)、湿、痰などの表現があります。総称して痰飲(広義)ともいいます。漢方では少ない言葉を駆使して表現することが良くあります。時代によって使い方が変わったりもします。それで痰飲といっても、狭義と広義の意味が発生してきたのでしょう。時代によって使われ方が違うので、古書を読むときは注意が必要になります。 停滞する場所は、主に心下(みぞおち)です。心下にも狭義と広義があります。狭義ではみぞおちの部分をさし、広義ではみぞおちと、その下方で臍の上の一帯(中?)をあわせて広義の心下といいます。ここに停滞したら、腹診にて、つかえ感があったり、酷くなると硬くなり、圧痛もでてきます。つかえ感を心下痞と言い、硬いと心下硬と言い、両方合わせて心下痞梗(しんげひこう)といいます。その他、肌膚(きふ、皮膚のこと)にたまると浮腫になり、体が重だるくなります。腸に影響すると下痢になり、肺に影響して痰になり、頭部に影響すると頭暈、眩暈になります。 舌の診察(舌診)でも変化がみられます。正常舌は、淡紅色で、薄白苔ですが、湿濁が作られると、舌は胖大になり、歯根(歯型)ができます。苔は膩苔と言って、ラードを塗ったようなべたべた感が出現するようになり、色も白~黄の変化があります。湿濁が長く存在すると、熱を持ってきます。ヘドロが腐敗発酵して熱を産生する感じです。熱が強いと黄膩苔に変化します。脈でも変化が見られます。滑脈や弦脈がみられるようになります。 このように脾虚が進行して、湿濁を形成するようになったときの治療は、湿を干燥して痰をとく薬、半夏(燥湿 化痰の効能)や陳皮(燥湿健脾の効能)の薬が必要になります。四君子湯に、この半夏、陳皮を加えると六君子湯になります。(六君子湯の効能を表にしてみました)
表1
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