「肝の生理について」 今回は肝について述べてみます。肝の作用には二つあります。「肝は疏泄(そせつ)を主る」、「肝は蔵血(ぞうけつ)を主る」の二つです。「肝の蔵血」とは血を貯蔵して、必要なときに分配する役目をいいます。気血をつくるのは脾でしたが、その血を貯蔵するのが肝になります。次に「疏泄」を解説します。肝で最も重要な作用が疏泄です。疏泄とは気の流れを調節することです。身体の五臓六腑、経絡、九窮(耳、目、口、鼻、尿道口、肛門)、そこには気血がながれて生理活動が行われます。その気の流れを調節するのが肝であり、その作用が疏泄です。 肝は、五行(木火土金水)では木に属します。春も木に属します。春、草木は天に向かって伸びていきます。おなじく肝気も上方へ伸びやかに伸展する性質(升発という)をもっています。そして、①情志、②消化吸収、③気血運行、④水液代謝、⑤生殖機能などの面において、気血を伸びやかに運行させるのが疏泄の主な役割です。 情志は後で述べるとして、まず②消化吸収について考えてみましょう。脾は水穀の精微を上方に引き上げ、胃は腐熟を主り、それを下に移動します。脾胃は協調して消化吸収を行いますが、これに肝の疏泄が働いて、よりスムーズに昇降できるように調節しているのです。また胆汁を排泄する作用も持っています。③気血運行について:血を作り、統血(漏れないように固摂)するのは脾で、血をめぐらすのは心の行血作用です。肝は蔵血してプールしますが、気血が順調にめぐるように統括するのは肝の疏泄です。④水液代謝について:水液代謝に関与するのは、主に脾腎肺です。脾が水穀の精微から水液を吸収し、上方の肺まで上げます。肺は水の上源として、水を宣発粛降して全身に散布します。降りてきた水液は腎にて蒸騰されて再び上方へいくが、濁水は排出されます。これが水液代謝の機構です。その水液代謝が潤滑に行われるように調節するのが肝の疏泄です。⑤生殖機能について:漢方では月経、妊娠と関与するのは衝任脈という経絡です。これが肝と関係しているので、月経周期が順調に調節されるのです。一方、男子では、精室(精巣)を調節します。 精子を貯蔵ずる役目は腎ですが、精子の排泄は肝の疏泄作用によります。 最後に①の情志について:気を疏泄することにより情志は伸びやかになるのは、今までの考え方から当然でしょう。問題は疏泄が失調したときの病理です。疏泄が失調するときは2つの現れ方があります。疏泄不及(ふきゅう)と疏泄太過(たいか)です。不及とは疏泄作用が不十分なときで、太過は疏泄が過剰に起こる場合です。疏泄機能が不足して情志に及ばないと、郁郁として楽しめず、悲しくて泣き、やる気がおこらない、びくびくする。胸脇、乳房、少腹が脹痛し、いらいらするも程度は軽い状態です。逆に疏泄が過度になると、イライラして怒り、不眠頭痛、面赤目赤(顔は赤く、目も紅く)になり乳房が酷く脹痛した状態になります。
疏泄不及のときは肝気郁結(実証)、肝気虚(虚証)といい、疏泄太過なら気逆、肝郁化火の疾患に相当します。肝気虚(虚証)の疾患は、最近多いうつ病、不安神経症に通じるものです。四逆散、加味逍遥散は肝郁、肝郁化火を治す方剤なので、肝気郁結(実証)や疏泄太過の治療には有効ですが、(虚証)の治療には不適です。肝気を補うのは黄耆、桂枝、百合などがあげられます。
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