今回は腎について解説してみましょう。腎の生理作用には1)精を主(つかさど)る、2)腎は水を主る、3)腎は納気を主る、の3つがあります。まず「腎は精を主る」について;これは腎が、人体の精気を貯蔵していることをさします。ただ精(精気)には広義と狭義とがあって、広義の精とは、人を構成し、人の成長発育を維持し、生殖活動を行う精微物質のことをいいます。これは生命の源といえます。狭義の精とは、生殖活動に関与するものをいいます。生殖の元となる精微物質で、生殖の精とも言います。これらはともに父母から受け継いだものだから、先天の精といいます。これらは腎に包蔵されています。腎は生命の源であるので、「腎は骨を主り、髄を生じ、脳を充たす」とも表現されます。ところで、これに対して後天の精というのがあります。脾胃が食事から作り出した水穀の精のことです。出生の後、先天の精は後天の精によって養われ成長発育します。それで「先天が後天を生じ、後天が先天を養う」と表現します。 つぎは「腎は水を主る。」について;これには1)臓腑の水液代謝を促進する作用、2)尿を生じ排泄する作用があります。まずは脾が、その水液運化作用にて水液を肺へ上達(じょうたつ)して、肺が粛降(しゅっこう)作用で全身に散布します。各臓腑器官で代謝された濁液は肺の粛降作用で腎、膀胱に輸送されます。そこで腎気の蒸化作用(腎の陽気で水を蒸発させること)で濁中の清を再吸収し上昇し、余剰を尿にだします。各臓腑器官で代謝された後の濁液は三焦水道を経由して腎、膀胱に下輸(げゆ:下方に輸送)されます。このなかでも、腎気の蒸騰作用、推動作用が重要で、水液代謝がめぐるための原動力になります。
「納気」について;腎は肺が吸収した自然界の清気を吸収します。これが「納気」です。腎の固摂作用によります。つまり吸気は肺の粛降作用と腎の納期作用によって行います。一方、呼気は肺の宣発作用によります。 腎は成長期には活発に働き、背を伸ばし、髪もふやします。出産や過労で、腰痛がおこり、髪が抜け、歯が弱るのは腎の消耗が多すぎて、腎精不足になるからです。やがて七八(56才)になると腎は衰え始めます。これが老化です。腎は髄、脳も主るので記憶力減退もおこってきます。腎のイメージはこんな感じです。
ところで、アンチエイジングという言葉があります。このイメージはあまり好きでありません。老化が悪で、若さがすべての印象をうけるからです。人は歳をとるのが自然です。それに逆らうのは反自然であり、漢方にはなじみません。WHOではアクティヴエイジングを推奨しています。「年をとってもより快適な活動ができることを目標にする」ようですが、これなら頷けます。腎が弱り老化が始まっても、補腎することで、QOLをよくしていくことも漢方治療の一環でもあるからです。 |