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    胸脇苦満を漢方的に考える H25年12月15日
 

(1)腹疹所見としての胸脇苦満の病理は?
日本東洋医学会の教科書では

  1. 2種類の胸脇苦満がある。本来は「脇から胸にかけて重苦しく張っている」

自覚症状と江戸時代に発見した「肋骨弓の上部と下部の近傍に抵抗および圧痛がある」という他覚所見。今は両方合わせて胸脇苦満という。
②「横隔膜周辺臓器の炎症や機能亢進の反映としての一種の筋性防御」
③虚証では腹筋が薄く緊張も弱いので、胸脇苦満としてではなくむしろ腹直筋の全体の硬直性緊張(腹皮拘急、腹直筋攣急、心下支結の形でみられることが多い。)
それ以外の記述では


中医大辞典p1450

肝胆経気机の失調、胆火内郁で胸膈に症状「傷寒論の胸脇部満悶不舒」が出る。少陽病、郁病にてみられる。→腹診所見ではない。

小川
129

  1. 炎症性浮腫。皮下と皮内に浮腫があるのが特徴
  2. 下硬は抵抗あっても圧痛ないのが特徴122。

ただし「四逆散では胸脇苦満あるが浮腫はない」としているので柴胡剤に浮腫は必発ではない。また「柴胡桂枝湯p155の心下支結は内の熱。」として熱所見を重視している。

大塚

80>①胸脇苦満という症状は自覚的にみずおちから季肋部にかけて詰まったような重い感じを訴えるだけでも良い。かならずしもこの部に他覚的の抵抗と圧痛を証明しなくてもよい。
②往来寒熱の時、季肋下に抵抗圧痛を必ずしも訴えるとは限らない。
③胸脇苦満の本体はなにかまだ明らかにされていない。

江部

  1. 膈の病理を反映し、少陽病、瘧病、胆気郁滞などの時に抵抗、圧痛、痞硬などが出現する

 

(2)熱か否かの検討
①日本漢方では腹力の強弱を体質の強弱と考え、それにより柴胡剤の処方の虚実をきめている。大柴胡湯、柴胡加竜骨牡蠣湯、四逆散、小柴胡湯、柴胡桂枝湯、柴胡桂枝乾姜湯。
318条>少阴病,四逆,其人或欬,或悸,或少便不利,或腹中痛,或泄利下重
者,四逆散主之。甘草,枳实,柴胡,芍药
 右四味,各十分,捣筛,白饮和服方寸匕,日三服。欬者,加五味子,干姜各五
分,并主下利。悸者加桂枝5分,少便不利者,加茯苓五分。腹中痛者,加附子
一枚,炮令坼。泄利下重者,先以水五升,煮薤白三升,煮取三升,去滓,以散
方寸匕,内汤中,煮取一升半,分温再服。
「四肢逆冷がみられるが少陰陽気が抑圧されたもので陽虚でない。ゆえに悪寒
下痢はなどの虚寒証は見られない。このばあいは四逆散で鬱滞した陽気を調整
しなければならない。」
146条>伤寒六七日,发热,微恶寒,支节烦疼,微呕,心下支结,外证未去者,柴胡桂枝湯主之。
「傷寒にかかって6,7日すると他へ移行していくのだがまだ発熱、悪寒、四肢疼痛あるのは表邪があることを示す。また嘔吐、心下支結あるのは少陽に邪気侵入を示す。(太陽少陽の併病)」
147条>伤寒五六日,已发汗而复下之,胸胁满微结,小便不利,渴而不呕,但
头汗出,往来寒热,心烦者,此为未解也。柴胡桂枝干姜湯主之。・・日三服,
初服微烦,复服汗出便愈。
「 少陽の熱で口渇、頭汗するが胃とは関係ないので嘔吐はない。三焦の気機が滞って小便不利。脾気損傷して腹満、軟便。(少陽の熱と太陰の寒の併病)。  之を飲んで汗出れば便癒ゆ。とあるので軟便は在るはず。」

 

四逆散

柴胡桂枝湯

柴胡桂枝乾姜湯

方剤学
神戸中医研

柴胡6白芍9枳実6炙甘草6

柴胡12黄芩9半夏9党参6生姜6炙甘草6大棗6+桂枝6白芍9

柴胡15黄芩9桂枝12乾姜6栝楼根12牡蠣20炙甘草3

弁証
神戸中医研

肝気郁結、肝脾不和、熱厥

太陽少陽合病、肝郁化火。脾気虚、痰湿

半表半裏証、肝郁化火胃寒津虚

腹診
漢方医学

腹力は中等度~稍実
胸脇苦満と腹直筋攣急

胸脇苦満があり、上腹部の腹直筋攣急(心下支結)をともなう。腹力は中程度ないしやや軟。

腹筋の緊張が弱く、
胸脇苦満微結、大動脈の拍動亢進が多い

病態
方剤学
神戸中医研

外邪が少陰に入り陽気を抑えて四肢に陽気が届かなくなる。四逆になる。四肢不温であり厥逆でない。陽気は郁されるが明確な熱証はない。方剤学

神戸中医研>
①桂枝湯で表寒を除き、小柴胡湯で半表半里を解消する。
②小柴胡湯を使用する状況でより肝鬱顕著なもの?

少陽の病が脾寒をおこした。往来寒熱、マラリアの寒多微熱を治す。

明確な熱証はない

★熱証あり。白芍あるから血虚あり、それで腹直筋攣急。

寒熱交作(寒多微有熱)

胸脇苦満の程度の差は熱よりも腹力であり、脾気による

腹筋攣急(鑑別診断学)
1)寒湿阻滞、2)肝鬱気滞 3)血不栄

脾陽虚ある。

結論1)四逆散と柴胡桂枝乾姜湯の比較から、胸脇苦満は熱が原因とはいえない。むしろ脾陽虚である。
結論2)柴胡桂枝湯は小柴胡湯より更に虚である。これに小柴胡湯にはない腹直筋攣急がある理由は肝郁ではなく、血不栄である。まして熱ではない。
参考1)江部は柴胡桂枝湯と柴胡桂枝乾姜湯をくらべて後者がより虚証とは言えないとしている14。
参考2)鑑別診断学では「少陰」について>四逆だから少陰としているが熱厥の厥逆ではない。陽気が郁しているからであり肝気郁結。

(3)つぎに小柴胡湯の病理から胸脇苦満を調べてみる
小柴胡湯>劉老師の解説から
少陽は半表半裏の部位にあり、その気自身が進退を繰り返すので病状変化がとても多い。


往来寒熱

邪気が陰にまで侵入すると悪寒が生じ、正気が盛んで邪気まで退けると発熱が生じる。

胸脇苦満

少陽系が邪気を受けると経気の流通が悪くなり胸脇苦満が生じる

寡黙、

少陽の気が停滞すると疏泄失調になり、寡黙になる。停滞が長くなり化火すると煩躁、易怒になる。

食欲不振、喜嘔

疏泄失調から脾胃に影響して食欲不振、胃気上逆して嘔吐になる。

胸中煩、不嘔

熱が胸中に停滞していると心煩する、しかし胃に及んでないから嘔吐はない。

口渇.

熱邪が津液損傷

腹中痛

気滞が血流に影響して腹痛

脇下痞硬

邪気が停滞して肝に及ぶと脇下に痞硬が出る。

心下悸、小便不利

三焦水道が滞ると水飲が停滞し、上部に影響して心下悸、小便不利。

不渇、微熱

邪気がやや表に近いと口渇なく微熱。

咳漱

邪気が身体の上部を犯すと肺気不利で咳漱

上記の説明では少しわかりにくい。膜原を考えるとスムーズになる。
膜原>「膜原は胸膜と膈肌の間の部位」大辞典よりp1898
狭義の膜原として:伏邪理論よりp92~
①「募原とは膈膜の原(広場)」②「内は膈肉、前は胸の鳩尾、横は腹脇、後ろは11椎。③膜原は、外は肌肉に通じ、内は胃腑に近い、三焦の門戸であり一身の半表半裏である。
広義の膜原
④膜原は人の一身の皮と肉の間の隙間。胃腸の挟層(大網?)、臓腑の脂膜、膈間の挟層(狭義の膜原)。→三焦に近い
★少陽経の邪熱は半表半裏に存在し、それゆえ膜原(狭義)に移行して伝搬する。
邪気は膜原の中で
1)肺に移行して咳漱、
2)心に移行して、胸中心煩、不嘔
3)脾胃に移行して、食欲不振、嘔吐→やがて心下痞梗
4)三焦の水道作用に影響して水飲停滞から心悸、小便不利
5)三焦の元気通行作用に影響して、気が廻らず営血不足から腹痛。
6)膜原に熱がこもり口渇
7)膜原から邪が出ようとして表(太陽経)にちかづくと不口渇、微熱
8)邪気が脇下に結集して脇下痞硬(腹診での胸脇苦満)
多彩な病態を生じる。肌表では季肋下に出現して胸脇苦満になると考える。
結論3>胸脇苦満は邪気が脇下に結集して脇下痞硬
(4)邪気の種類について検討する。大塚、山田の症例から
4-1)胸脇苦満あって柴胡つかった症例では


肝郁化火胃気上逆

大柴胡湯、大柴胡湯去大黄加釣藤鉤3
大柴胡湯去大黄加釣藤鉤3黄耆2、大柴胡湯加川芎2
大柴胡湯+桃核承気湯、大柴胡湯加地黄8、大柴胡湯+茵陳蒿湯

心肝火旺脾虚痰湿

柴胡加竜骨牡蠣湯、柴胡加竜骨牡蠣湯去大黄鉛丹釣藤鉤芍薬

肝郁化火脾気虚痰湿

柴胡桂枝湯、小柴胡湯、十味敗毒湯、柴苓湯

肝気郁結

四逆散加茯苓生姜、柴胡疏肝湯、
解労散(四逆散+鼈甲、茯苓、大棗生姜)

肝気郁結肝脾不和

四逆散四物湯

肝陽上亢

釣藤散。

気血両虚の肝陽化風

抑肝散、抑肝散陳皮半夏+桂枝茯苓丸

風湿熱の皮疹

十味敗毒湯加石膏連翹

4-2)胸脇苦満あって柴胡を使用していない症例


痰熱結合

小陥胸湯

肝胆湿熱

茵陳蒿湯

陰虚陽亢、

竜骨湯
(竜骨2牡蠣3桂枝3麦門冬4茯苓4遠志3甘草2)

瘀血

桂枝茯苓丸

陰虚火旺と胃熱

三物黄芩湯+瀉心湯

虚寒で瘀血>寒秘

大黄附子湯

血虚、気滞>寒湿痺の熱痛

桂枝芍薬知母湯

まとめると肝郁化火±脾胃不和、肝郁、肝陽上亢±気血両虚、陰虚火旺と胃熱痰熱結合、肝胆湿熱、陰虚陽亢、瘀血、虚寒+瘀血、血虚気滞、風湿熱の皮疹(気滞か陰虚内熱か)
さらに簡略化すると、結論4)胸脇苦満をおこす邪は
「肝郁化熱、肝郁気滞、肝胆湿熱、瘀血、肝陽上亢、陰虚陽亢~火旺」
(5)ここで邪気の侵入経路をしらべる。
経路1)  97条>血弱。气尽,腠理开,邪气因入,与正气相搏,结于胁下,正邪分争,往来寒热,休作有时,嘿嘿不欲饮食,腑相,其痛必下,邪高痛下,故使呕也,小柴胡汤主之。服柴胡汤已,渴者属阳明,以法治之     (腑相,其病必下,膈中痛。
「人体の気血が衰弱すると、腠理が開き、邪気が好機とばかりに侵入して正気と争い、脇下に集結する」(往来寒熱して時に症状はやみ、飲食欲せず、臓腑が和せず、病は必ず下し、脇膈が痛み、ゆえに嘔吐する。小柴胡湯が之を主る。小柴胡湯のんでも口渇するのは陽明病に属する)」「少陽病の病変機序を分析している」
★気血が少ないので太陽から少陽に移行した。詰まるところは脇下だという。少陽経は少血多気の経絡だから血が不足すると、より影響うけやすい経絡といえる。

経路2)「膜原は外では肌腠に通じ、うちでは胃腑に近い。だから三焦の要であり、内外交界の地、一身の半表半里である。おおよそ外邪は膜原より内に入り、内邪は膜原より外に出る。」三訂通俗よりp61
★(少陽経は枢といわれるのは外感伝変のカギになるからである弁証学413。)つまり外に出るとは肌表にでていくことだろう。江部理論でもここから前通,後通の衛気が出入して肌膚にいくといっている


●胸脇苦満は脾気充実しているときに、膜原とくに少陽経の邪(肝郁化熱、肝郁気滞、肝胆湿熱、瘀血、肝陽上亢、陰虚陽亢~火旺)のために腹診上、肋骨弓の上部と下部の近傍が痞硬したり、また圧痛がでる所見。
①脾気虚があると腹部は軟になり、胸脇苦満の所見は出にくくなる。
②ただし脾虚(主に血不足)がすすむと心下支結(柴胡桂枝湯証、芍薬あり)になる。
③邪が盛になると膜原を通じて邪が拡大して、心下痞硬も形成していく。(大柴胡湯証)
④外邪が侵入しての胸脇苦満は肝血不足があると邪が少陽経に着く。
⑤小児は常に脾気不足なので胸脇苦満はでない。
⑥瘀血による脇下硬は抵抗あっても圧痛はない。(小川)
⑦柴胡を使わない場合もある。(肝胆湿熱、瘀血、陰虚陽亢~火旺の場合である。
柴胡黄芩の燥性のため却ってよくないことがある。)

参考>江部「瘧病は膈の病気で当然脇に抵抗圧痛がある。金匱では柴胡は使うが麻黄、桂枝もつかう」→「师曰,阴气孤绝,阳气独发,则热而少气烦冤,手足热而欲呕,名曰单虐。」これは陰虚火旺であろう。

 

(6)江部理論p36について検討する。
<衛気の2階建理論>
1)衛気は皮の部分を走ります。肌の部分も衛気と津液が流れます。皮や肌を流れている気は、もし何かの機会があれば腠理を通じて汗になって外に出ます。衛気は皮、肌、腠理を温めながら、また外邪に対して防衛しながら、消耗しつつ走ります。先端まで言った衛気は帰ってきます。その帰ってくる道を考えねばなりません。
2)皮を走る衛気の道は二つに分かれ、一つの道は皮の道を帰り、もう一つは肌の道を帰ります。皮を走り皮を帰る気はその後、胸に行きます。肌を走る気は肌の道を帰ります。皮を走り、肌の道を帰る衛気と肌の道を行き肌の道を帰る衛気は合流して心下にいきます。
3)このようなことを考えたきっかけは、足の浮腫に、二つの異なった様相があったからです。足の浮腫を見た場合に、ボコボコにむくんでいる人と、それほどむくんでいないけれど、皮膚の表面がサランラップで包んだようにピカピカしている人があります。
4)ピカピカの浮腫は皮の部分に水がたまった状態で、肌のようにキャパシティがないので表面が張ってピカピカになります。これが皮水です。金匱には皮水と風水の記載があります。肌水はないけれど風水がこれに相当します。
問題点1>        皮水と肌水の区別はこれでよいか?。


西洋医学

中医学

傷寒論

non-pitting edema

  1. 甲状腺機能低下症による粘液水腫、

リンパ水腫

  1. 好酸球性血管性浮腫

気腫(皮膚色不変、按じるとすぐ起きてくる)

  1. 丹渓心法>气肿者,皮厚,四肢瘦削,腹胁胀膨。
  2. 諸病源候論>其状如癰,无头虚肿,色不变,皮上急痛,手才着,便即痛,此风邪搏于气所生也。

皮水?

pitting edema
心不全、ネフローゼ症候群、急性糸球体腎炎、肝硬変、薬剤性

水腫(皮膚腫脹、水色、按じるともだらない)
●弁証(陽水と陰水を含む)
風水氾濫、湿毒侵淫、水湿侵漬、湿熱壅盛、気滞水停、気虚水溢
脾陽虚衰、腎陽衰微、気陰両虚

風水、正水(心臓喘息と浮腫)
石水(腹水)

  中山書店、内科学書より
①「好酸球性血管性浮腫は若い女性(平均28歳)の急激な四肢遠位の著名なnon-pitting edemaで発症し、初診時から著名な好酸球増加を認め、ほとんど無治療もしくは少量のステロイドで軽快します。浮腫は2-3週目がピークで以後改善し好酸球は3-4週目がピークで減少していきます。」血管浮腫自体は「皮下、粘膜下組織に生じた皮膚深部の浮腫である、正常皮膚から淡紅色の弾力のある境界不明瞭な浮腫。熱感、腫脹感あるが、痒み少なく有痛性が多い。p946」
②粘液水腫>皮膚は蒼白で浮腫上となるが触ると冷たく圧迫しても圧痕残さない。これは皮下組織にヒアルロン酸、プロテオグリカンが蓄積するからである。肥満、筋力低下、低身長。成人では魚鱗癬様になることがある。
★臨床中医内科では、「粘液水腫は虚腫であり、脾腎陽虚から水湿氾濫しておこる」という記述のみである。

③リンパ水腫>足、踵、下肢、手背、上肢が多い。疼痛、色の変化、鬱血はなく、冷たい浮腫である。徐々に硬くなり、ときに象皮症になる。
先天性と二次性(乳癌、子宮癌手術後)★容量大なので当然皮下組織だろう

  1. 性糸球体腎炎>上気道感染後1~2週間で発症し浮腫、高血圧、血尿。

●non-pitting edemaはすべて皮下にあり、水(組織液)でなく、リンパ液、ヒアルロン酸、好酸球が増加するために陥没しない。→★「皮水は風水と同じく肌に蓄積するが粘性が強いものが蓄積するため凹まない。中医的には痰濁、湿熱か?」

問題点2> 衛気が津液を流通させている印象を受けるがそれでよいのか。
江部理論では「衛気が津液を流通させて、風邪とであい衛気は風と相博して津液が停滞する」ように読み取れる。
中医的に「津液を流通させるのは肺気による宣発粛降である。この肺気は肺精と宗気からつくられるp89。」「風水は風邪を受けて邪が肺を犯して宣発粛降がみだれ皮膚で浮腫になる。」その他脾の水液運化、腎の主水作用、心水がある。

<傷寒論的伝変p68>
5)傷寒論的伝変をしめすものとして131条があります。
「病发于阳,而反下之,热入因作结胸。病发于阴,而反下之,因作痞也。所以成结胸者,以下之太早故也,结胸者,项亦强,如柔痉状。下之则和,宜大陷胸丸。  大黄,蒂苈子,芒硝,杏仁」
つまり陽に発したものを誤って下せば結胸となり、陰に発したものを誤ってくだせば痞となるというのです。この条文での陽とは皮、陰とは肌を指していますから、皮に侵入した邪は胸にいたり肌に侵入した邪は心下に至るという伝変がわかります。
問題点3>131条の解釈はこれでよいのか。邪気の侵入経路が皮肌(ひき)の部分で2階建で走行するというが、妥当か?
劉老師の解説>「結胸証は太陽病を誤って下して、表証の熱邪が内に堕ちこんで水飲と結合しておこる。また太陽病が治癒しきれず裏に侵入し、誤って下して水飲と結合して形成されたものもある。」★後半の痞は結胸のことを言っているような解釈である。
★「結胸証は太陽病を誤って下して、表証の熱邪が内に堕ちこんで水飲と結合しておこる。また太陽病が治癒しきれず裏に侵入し、誤って下すと心下痞になる。」こうする根拠は
173条>大阴之为病,腹满而吐,食不下,自利益甚,时腹自痛。若下之,必胸下结硬。★腹満は脾の運化失調である。下すと脾は陽気損傷して脾胃不和になり心下痞硬になる。
参考)太陰直中>症候鑑別554
太陰虚寒証(太陰直中)は三陽から、もしくは素体脾胃虚弱のために(多くは脾虚555のために)寒邪直中しておこる虚寒下痢、脾虚の症状。 症状「腹满而吐,食不下,下痢清谷、便溏薄、口不渇、时腹自痛、眩暈,面虚浮、水腫、面色蒼白、萎黄華なし、少気懶言、四肢倦怠、神疲無力。舌淡白、薄白苔潤、脈沈緩無力」
以上から、病陰に発するとは「脾虚のため直中して発症」と読める。脾虚からさらに下して陽気損傷して心下痞梗になるという。
結論5)脾虚が心下痞を作る切掛けといえる。すなわち脾虚があるから邪が膜原の中央からに侵入して心下痞硬を作るようだ。一方、肝血が不足していると脇下に邪が集結するようだ。

  (7)皮水、風水、溢飲などの表現が傷寒論にでてくる。しかし水腫の診断治療する場合、どういう立ち位置にあるのかよくわからない。
附属資料でそれを検討してみました。

溢飲>

大青竜湯

小青竜湯

風水>

防已黄耆湯

皮水>

防已茯苓湯

裏水>

越脾加朮湯

追加、参考>
●「膜原(胸膈)で起こる疾患」について
明確にまとめた本はない。大辞典p1449.からでは「胸満の原因は風寒、熱壅、停飲、気滞、瘀血」と簡潔にまとめてあるが、それ以上の記載はない。
膜原の疾患で調べると、邪伏膜原証(湿熱疫毒の邪が膜原に入り形成する。)治療は達原飲とあるだけである。
そこで膜原(胸膈)でおこる症状「胸悶、憋气、心下懊悩、胸痺」からまとめると、以下の表のようになる。

 

 外邪>①風寒、風熱あるが肺熱おこしてその熱が波及
②邪熱(疫病、湿温病)が直接、膜原に侵入
③素よりあった支飲と結合する
痰飲>①支飲が停滞して喘咳 
②ここにあった支飲が水気上逆して頭窮を傷害(めまい)
③痰飲が熱邪と結合して、
気滞、①肝郁気滞でおこる
虚証 ①気陰両虚、陰虚火旺などで余熱でおこる
<真心痛>
①心痛をおこす疾患が胸にて胸痺をおこす。心痛をともなっている。
②心気虧虚、寒凝気滞、心血瘀阻、気陰両虚、痰濁阻滞、熱壅血瘀

 
 
 
 
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