1)伏邪学説 「冬伤于寒,春必病温」「 冬藏于精者,春不病温」
2)新感温病、伏気温病(春温、伏暑)、伏邪について
- 明代、汪石山が「新感温病、伏気温病」を初めて提唱
- 金寿山は伏邪と伏気温病をわけて解説している。
伏気温病は傷寒を受けて体内に隠れて季節に呼応して温病になるものをいう、(金氏は否定的)。伏邪は病勢がひどく、過程も長く、繰り返し起こる一種の温病であり季節に無関係
3)伏気温病の伏暑と腸チフスの関係
初めは頭痛、悪寒、発熱(太陽病)。高熱が2,3週間続き(陽明経証)、ついで腹痛と著名な膨隆が通常みられる。便秘が多いが1/5は下痢(陽明腑実)。やがて全身倦怠、食欲不振。やがてせん妄、脈は徐脈(少陰病)。ひどいと腹膜炎、腸管穿孔、消化管出血。第2週の終り頃から特徴的なバラ疹。
4)伏邪の場所: 柳宝詒は少陰伏邪説、その他は募原説
- 募原(狭義)とは三焦の一部で、胸郭内の心肺の間の縦膈と胸膜などの組織間隙、気分(胸郭、肺、胆、胃腸、脾)の一部である。
- 三焦とは全身に行き渡る組織間隙と細胞間隙
5)伏邪の処方
- 柳宝詒(少陰伏邪説)は黄芩湯+淡豆鼓、玄参
- 呉又可の達原飲(募原説)草果、檳榔子、厚朴、黄芩、芍薬、甘草
- 愈根初の柴胡達原飲(募原説)
柴胡、黄芩、桔梗、枳殻、草果、檳榔子、厚朴、青皮、炙甘草、荷葉梗
6)募原、三焦と六経弁証、衛気営血弁証の関係
(1)皮に入った寒邪は太陽病証として現れる。肺は皮毛をつかさどるので 邪気は次に肺に行き裏(気分)に入る。肺は水の上源であり、三焦とつながる。三焦を介して、胃腸、脾、胆に広がる。例えば①微慢性に三焦に広がった邪気は陽明経証といわれる気分大熱の症状になる。次いで②胃腸に熱邪が侵入したら陽明腑証となる。また一方で③少陽胆経にはいると往来寒熱の症状を主とする少陽病証になる。胸郭でつまって熱になった場合は④結胸となる。また脾に伝経して太陰病になることもある。
(3)募原は表と裏をつなぐところ、(三焦にはそういう記載はない)。すなわち募原からさらに裏にある営血に入ると④寒邪は腎の陽気を損傷して少陰病になり、または化熱した邪気が腎陰を消耗していく。一方、⑤肝腎にはいって厥陰病になっていく
7)少陰の伏邪の場合
五臓はみな募原(広義)を有しているという説もあるので三焦とつながる少陰募原(気分)とみなせる。三焦の元気は腎からでるので三焦と腎の関係は深い。
8)湿温病の場合も口鼻から入った邪気は募原でつまる。
そして気分における証として気分大熱証、陽明熱結証、邪熱壅肺証などに展開していく。
<参考資料>
- 腸チフス(伏暑としてみた腸チフス)(ハリソン内科学より)
1)サルモネラ菌による経口感染で夏に発生多い
2)潜伏期間は平均10日であるが、感染菌量によって3~60日の範囲がある。
発症するには摂取した菌量が大事。
3)臨床症状は個々の患者によって著しく変わる。1週間~8週間の幅がある。
栄養状態が悪いと感受性は高まる。
4)初期の症状は頭痛、悪寒、発熱。また腹痛、腹部膨隆、便秘。
5~7日には熱が徐々に階段的に上昇し39~40度の持続性、弛張熱になる。
(このころの主体は熱、徐脈、肝脾腫、バラ疹、便秘)
この高熱が2,3週間変化せず続き、全身衰弱、食欲不振、せん妄おこる。
また腹痛と著名な膨隆が通常みられる。ひどいと腹膜炎から腸管穿孔、消化管出血。便秘が多いが1/5は下痢。 第2週の終り頃から特徴的なバラ疹(2~4mmの紅斑性斑点が腹、胸に出て、2.3日で消える。 また気管支炎がでることもある。
5) 病理
チフス菌は小腸に入って腸管リンパ管から細網内皮系で増殖して敗血症になっていく。持続性敗血症になると胆嚢感染してここで菌は増殖する。
不定期の発病期間が終わっても5~10%は2週間後に再発する。
最初の感染が軽微なものでも、時に胆嚢に持続感染を続け糞便にチフス菌を排出続けることがある。
参考>陽明経証から陽明腑証への流れは腸チフスの流れである。
悪寒、頭痛、発熱の伏暑(腸チフス)についての見解。
「头痛,恶寒,与伤寒无异;面赤烦渴,则非伤寒矣,然犹以伤寒阳明证;
若脉濡而数,则断断非伤寒矣。」(温病条弁)
「全身にいきわたっている組織間隙と細胞間隙ににている。これらは細胞外液が順行する通路である。」(詳解中医基礎理論)
「三焦は水と気の通路として重要なところ。脾胃の気が昇降するほか、心肺の気下降、肝腎の気上昇、などの気も昇降する場である。」「三焦は腎から出た元気がとおる道、元気は生命活動の原動力の気の元になる。宗気は三焦をくだり、腎にいき元気を補助する。」(中医基礎理論) |